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AI-DLC Workflow V2のexpressスコープ: 要件からデプロイまでを一直線で通す最軽量スコープ

設計もレビューも要らない、とにかく速く動くものを一直線で作りたい。そんなときはどのスコープを選べばいいの? 実は最近、`express`という最軽量スコープが新しく加わりました。過去のスコープ紹介では触れられていなかった、要件からデプロイまでを最短で通すこのスコープを見ていきましょう。シリーズ第25回。

Series: AI-DLC Workflow V2の解説 (31 articles)

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    AI-DLC Workflow V2のexpressスコープ: 要件からデプロイまでを一直線で通す最軽量スコープ This article
AWS Japan, Developer Specialist SA

1. はじめに

この記事はAI-DLC Workflow V2(以降V2)解説シリーズの第25回です。
スコープが「どのステージを実行するか」を決め、DepthとTest Strategyが「各ステージの密度」を決めるという3軸の制御を扱いました。今回はそのうちスコープの1つ、express(エクスプレス)に絞って掘り下げます。expressは後から加わったスコープです。
この記事を読み終えると、expressが何を実行して何を省くのか、他の軽量スコープとどう使い分けるのか、そしてどんなときに選べばいい(逆に避けたほうがいい)のかが分かります。

2. expressスコープとは(定義・位置づけ)

では、expressスコープの定義から見ていきましょう。
expressは、要件(requirements)からコード、テスト、デプロイまでを一直線でたどる軽量なスコープです。設計パス(design pass)とレビュアーの起動(reviewer dispatch)を行わない点が特徴です。ここでいう設計パスとは、ドメイン設計や機能設計など、要件とコードの間に挟まる設計ステージ群を指します。
スコープ定義ファイルのフロントマター(先頭の設定ブロック)には、この性格が明示されています。
項目値意味
nameexpressスコープ名
depthMinimalアーティファクトの詳細度は最小
keywordsexpress, lightweightこのスコープに対応づけられたキーワード
description"Lightest run: requirements to deploy, no design pass, no reviewers"要件からデプロイまで、設計パスもレビュアーもなし
skeletonoffウォーキングスケルトンのセレモニーを行わない
review_capnoneステージレビューを起動しない
review_cap: noneによってレビュアーが無効化されるため、成果物完成後のレビューエージェントは起動しません。Reviewer Class(第22回で扱ったレビューの重さを制御する仕組み)でいう「none」に固定された状態です。
DepthはMinimalです。第14回 で見たとおり、Minimalは各ステージが核心的な決定事項だけを1〜2ページ程度で記録するレベルです。Test StrategyもデフォルトではMinimalを継承します。ただしMinimalであっても、要件駆動のユニットテストと、コンポーネントごとの正常系(happy-path)テスト1つは最低限求められます。テストが完全に省かれるわけではありません。
位置づけとしては、V2のスコープ群の中で最も実行ステージ数が絞られた部類に入る軽量スコープの1つです。具体的な数は次の節以降で確認します。

3. expressで動くステージ/省かれるステージ

では、expressが33ステージのうちどれをEXECUTE(実行)し、どれをSKIP(スキップ)するかを見ていきましょう。
コンパイル済みのスコープグリッドによると、expressのEXECUTE / Totalは10 / 33です。実行されるのは次の10ステージです。
フェーズステージ実行条件
InitializationWorkspace Scaffold常時
InitializationWorkspace Detection常時
InitializationState Initialization常時
InceptionReverse Engineering条件付き(ブラウンフィールド時)
InceptionRequirements Analysis常時
ConstructionCode Generation常時
ConstructionBuild and Test常時
OperationDeployment Pipeline条件付き
OperationDeployment Execution条件付き
OperationObservability Setup条件付き
この10ステージ以外は、すべてSKIPされます。
流れを言葉にすると、Requirements Analysis(要件分析)が契約(要件)を確立し、Code Generation(コード生成)がそれを実装し、Build and Test(ビルドとテスト)が検証し、Operationの末尾(deploy tail)がデプロイと観測を担います。この間に設計ステージは挟まりません。
いくつか補足します。
  • Reverse Engineering(リバースエンジニアリング)は条件付きです。既存コードがあるブラウンフィールドのプロジェクトで、その理解を提供するために動きます。グリーンフィールド(新規)ならスキップされます。
  • Operation(Deployment Pipeline / Deployment Execution / Observability Setup)も条件付きです。デプロイするものが何もなければ自己スキップします。これらのステージは、設計成果物の生成ステージが意図的に省かれている状況で、承認済みの要件、ワークスペースのデプロイ設定、ビルド結果、そして先行する末尾ステージの成果物を利用して動作します。
  • Swarm(スウォーム、並列Construction)の経路は構造的に到達不能です。expressはUnits Generation(ユニット生成)をスキップするため、Unit DAG(ユニットの依存グラフ)が存在せず、並列実行の前提が成立しないためです。
つまりexpressは、設計とレビューという2つの重い工程を丸ごと省くことで、要件から動くものまでの距離を最短にしているスコープです。

4. 他スコープとの比較・使い分け

次に、他の軽量スコープとexpressを並べて比較していきましょう。実行ステージ数だけを見ると近いスコープがいくつかありますが、性格は異なります。
コンパイル済みグリッドの数値で比較します。
スコープ実行ステージ数Depth性格
express10 / 33Minimal要件からデプロイまで一直線。設計パスとレビュアーなし
poc8 / 33Minimal実現可能性の検証。最小構成
bugfix9 / 33Minimal既存コードのバグ修正
mvp23 / 33StandardグリーンフィールドのMVP。設計ステージを含む
expressとpocはどちらもDepthがMinimalで、実行ステージ数も近い軽量スコープです。pocが8ステージなのに対し、expressは10ステージで、Operationの末尾(デプロイと観測)まで含めている点が違います。pocは実現可能性を確かめること自体が目的なのに対し、expressは動くものをデプロイまで持っていくことを見据えています。
bugfixは9ステージで、既存コードのバグ修正に焦点を当てたスコープです。expressが「新しく作って出す」方向なのに対し、bugfixは「既存の不具合を直す」方向です。
mvpは23ステージ、DepthはStandardで、expressとは性格が大きく異なります。mvpは設計ステージを含み、アーティファクトの詳細度も高い、本格的な新規開発向けのスコープです。設計を残さずスピードを取るのがexpress、設計を含めてMVPとして育てるのがmvp、という使い分けになります。
同じMinimal・実行ステージ数10のスコープとしてrefactor(10 / 33)やsecurity-patch(10 / 33)もありますが、これらはそれぞれコードの再構成、脆弱性対応という別の目的に特化しています。ステージ数が同じでも、EXECUTEされるステージの顔ぶれと目的が違う点に注意してください。

5. expressを選ぶべき/選ぶべきでない判断基準

では、どんなときにexpressを選び、どんなときに避けるべきかを見ていきましょう。

選ぶべき場面

expressが向いているのは、設計の合意形成やレビュー工程よりも、要件から動くものまでの速度を優先したい作業です。定義ファイルのフロントマターが示すとおり、これは「最軽量の実行」を意図したスコープです。
  • 要件がすでにはっきりしていて、設計パスを挟むほどの複雑さがない作業
  • レビュアーの起動を省いても差し支えない、影響範囲の小さい変更
  • 要件からデプロイまでを一気に通したいケース

選ぶべきでない場面

一方で、expressが省く工程が必要なプロジェクトには向きません。
  • 設計上の判断を残したい場合。expressは設計ステージをスキップするため、ドメイン設計や機能設計の成果物は生成されません。設計の意思決定を文書として残したいなら、mvpなど設計ステージを含むスコープを選びます。
  • レビューによる品質ゲートが必要な場合。review_cap: noneによりレビュアーが起動しないため、成果物へのレビューエージェントの所見は得られません。レビューを効かせたいなら、レビューを含むスコープを選ぶか、Reviewer Classの設定を見直します。
  • 並列Constructionを使いたい場合。前述のとおりUnits Generationをスキップするため、Swarmの経路には到達できません。
判断の軸を1文でまとめると、設計とレビューを省いて速度を取れる作業ならexpress、それらの工程が成果物として必要なら別のスコープ、という切り分けになります。

6. ワークフローの流れ

最後に、expressを選んだときのワークフローの流れを軽く見ていきましょう。ここでは詳細な追体験はせず、全体像だけを押さえます。
流れは、初期化を経て、要件分析で契約を固め、コード生成で実装し、ビルドとテストで検証し、条件が揃えばデプロイと観測に進む、という一直線です。
図のとおり、要件とコードの間に設計ステージは挟まりません。ブラウンフィールドのときだけReverse Engineeringが要件分析の前段に加わります。末尾のデプロイ・観測はデプロイ対象がある場合に進み、なければ自己スキップします。
各ステージの内部でどんな承認ゲートやアーティファクトが動くかは、他のスコープと同じV2の共通の仕組みに従います。expressが変えているのは、あくまで「どのステージを通るか」という経路だけです。

7. まとめ

この記事では、V2の最軽量スコープの1つであるexpressを見てきました。
expressは、DepthがMinimal、review_capがnone(レビュアーなし)、skeletonがoffという設定を持ち、33ステージのうち10ステージをEXECUTEします。要件分析、コード生成、ビルドとテスト、そして条件付きのデプロイ・観測を一直線でたどり、設計パスとレビュアーの起動を省きます。テストはMinimalでも、要件駆動のユニットテストとコンポーネントごとの正常系テストは残ります。
軽量スコープの中での位置づけとしては、実現可能性検証のpoc(8ステージ)よりデプロイまで踏み込み、バグ修正のbugfix(9ステージ)とは目的が異なり、設計ステージを含むmvp(23ステージ)とは性格が大きく違います。
選ぶかどうかの判断は、設計とレビューを省いて速度を取れる作業かどうかにかかっています。設計の意思決定やレビューの品質ゲートを成果物として残したいなら、それらを含む別のスコープを選ぶのが筋です。自分のタスクが「要件は固まっている、あとは一直線で動くものを出したい」に当てはまるなら、expressが候補になります。

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